萬古焼 急須を作る窯元を取材

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使って育てる、萬古焼の“急須“

萬古焼を代表する製品の一つ、急須。

鉄分を含む赤土で成形し、還元焔で焼成、焼き締めた急須は、紫がかった独特な土色となり「紫泥(しでい)」とも呼ばれ、使えば使うほど渋い光沢を発します。

茶葉の渋みをやわらげ旨み成分を引き出してくれるため、緑茶との相性がよく、人や環境を選ばず、おいしいお茶を淹れることができます。萬古焼の急須は、磁器のようなガラス釉薬を使うわけではなく、無釉で焼き締められています。そのため、表面への吸水性(吸着性)があり、陶器の鉄分とお茶の成分のタンニンが融合して、お茶の味がまろやかになる、ということが近年の研究によりわかってきました。古来より「萬古焼で淹れたお茶はうまい」と言われているのには確固たる理由があったのです。

三重県四日市市には急須を製造している窯元が数社あり、今回はその中で数世代に渡って急須を専門として作り続けている窯元、「陶山製陶所」の5代目益田英宏氏にお話しを伺いました。

素地師から窯元へ 

「陶山製陶所」は急須づくりを専門としている窯元です。

初代は、四日市萬古の基礎を築いたとされる山中忠左衛門(1821~1878年)と同時期に創業、2代目までは萬古焼の素地師(きじし)として従事していました。

本格的に急須作りの窯元として取り組むようになったのは、3代目である祖父の代からで、窯元としては3代目、萬古に携わっている家として5代目、というユニークな歴史を持ちます。

現場を率いる5代目の英宏氏は、学生時代には実家を継ぐという意識も特になく、違う業種に就職しましたが27歳の時に地元に帰郷。最初は気軽な気持ちで家業を手伝い始めたものの、その面白さにどんどん魅了されていきます。

入社した頃、製陶所は「内素地(うちきじ:自社で素地を作る)」を行っておらず、焼成が専門の窯元でした。そんな中、英宏氏は窯の将来のことを見据え、自社での「内製化」を目指すことを考え着手していきます。

内製化をするにあたって、いろいろな事を学ぶ必要があると考えた英宏氏は、自身も手引き(手回し轆轤)を習得。素地だけでいかに良質な製品を作っていくことができるか、素地の持つ可能性と奥深さを日々追求していくことになります。

暮らしに寄り添う陶山製陶所の急須

ペットボトルが多用されお茶を淹れて飲む文化が減りつつある中、急須が家庭で登場する頻度は減っています。しかし英宏氏の話を聞いていると、急須を使った愉しみ方というのは、時や場所を選ぶ必要はなく、特別な事でもなく、人それぞれで良いということに改めて気づかせてくれます。

何℃のお湯で淹れるとおいしくなるなどの作法はあるので、もちろんその作法に合う急須は作っています。ただお茶の味は繊細なので、作法だけに左右されると、『淹れるのが難しい』となり、敬遠されてしまいます。

それよりも自分のお気に入りの急須で淹れる。それだけで気分はあがり、お茶がおいしくなる、おいしいと感じるんです。だから使う人が『この急須素敵だな』と思えるような急須を作っていきたいんです。

急須が現代生活において少し疎遠な存在になりつつなる中、休日にはお茶を急須で淹れてみる。“淹れる”ことで五感が刺激され心と暮らしが豊かになる、ささやかなことが丁寧な暮らしを生む、その提案をしたいと英宏は言います。

お茶を通して心地よい時間を感じてもらう、使い手の事を思いながら手作業で丁寧に一つずつ接合している姿に、手仕事の美しさがありました。

内製化がもたらした自由な発想で「個性」を発揮

外素地だった頃には、思うような形状にするのが難かしいなどの課題がありましたが、内製化が進んだことにより、商品開発の自由度合いが上がりました。コンセプトから開発までを自分たちで作っていける土台は整いつつあるため、個性を生かした急須作りの開発にも徐々に取り組んでいくことを、陶山製陶所では今後の展望の一つとして描いています。

ここ数年若いスタッフも新たに加わり、スタッフは女性5名。全員、萬古陶磁器工業恊同組合が主体となっているプロジェクト「やきものたまご創生塾」の卒業生たちです。

手引きの轆轤技術、絵付け技術、削り技術など、それぞれの技術を習得して入社され、訪問時も、皆さん明るく楽しく和気あいあいと作業されていて、活気あふれる職場だったのが非常に印象的でした。

製陶所は窯元なので、注文を受けた製品を量産する必要があります。一方で、スタッフの「やりたい」が尊重され、それぞれの個性と技術を生かしたモノづくりに挑戦、誇れるモノづくりができるような環境を整えることも、働く人たちのモチベーション維持としてはとても大切なことだと考えています。

現在窯元として6割を占める卸先への製造を継続させることで、商品開発や受注発注製造にもチャレンジする、それは会社のためだけでなく、萬古焼全体の人材育成や存続につながっていくという信念の元、これからも良い急須を追求し続けます。

自身にとって「やきもの」「萬古焼」とは

やきものは、生活を豊かにしてくれるもの。自身が数年前に入院した際に、陶器でない器で入院食が出た際に、とても味気ない思いをしたという氏。その時に、自分が今やっていることは人の心や暮らしを豊かにする仕事で、なんていい仕事なのだろうと、改めて気づかされたと言います。

急須を通して文化やライフスタイルを育んでいく、陶山製陶所は急須専門の窯元であり続けたいといいます。


【窯元情報】陶山製陶所

〒510-0007
四日市市別名1丁目15-9

TEL:059-331-5318 FAX:059-331-5318 

https://banko.or.jp/teapot/touzan/index.html

【陶山製陶所の製品の購入問い合わせ先】

萬古陶磁器卸商業協同組合

TEL:(059)331-3496 FAX: (059)331-5914

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