美濃焼 食器から暮らしをカスタマイズ 「情報発信のチカラ」で器を提案する卸小売店を取材
「うつわ」のすべてを伝える
日本最大の陶磁器生産拠点である土岐市。生産量は日本一で、駄知町は多くの窯元やメーカーが拠点を置く町です。
その中の一社、有限会社カネ忠は(以下カネ忠)、陶磁器・ガラス製品の販売・卸を行う企業で、OEM開発をはじめ、ネットショップ「ナチュラル和洋食器うつわやさん」を運営しています。
一対一、正直さ、スピードをモットーに、顧客のニーズや要望に耳を傾けることに徹底し、その上で的確な情報発信を継続的に行うスタイルは、長い年月をかけてコツコツと着実に積み重ねられてきました。そこにたどり着くまでの道のりや今後の展望を、「食器アドバイザー」としても活躍されている代表取締役の須藤真一郎氏にお伺いしました。
カネ忠を支える2本柱の変遷
陶磁器卸会社に勤務していた先代である父が独立、起ち上げたのが有限会社カネ忠です。創業年でもある昭和42年は、全国的に温泉ホテル旅館の建設ラッシュで、旅館で使用する器のニーズが非常に多い時代でした。
大量生産を得意とする土岐、特に駄知町は割烹向けの器作りが得意だったことから、カネ忠では旅館への直接販売と、主に駄知町で作られる丼類を東京の問屋向けに販売する、という2本柱で事業を行っていました。
その事業を進める中で、ある取引先から大相撲関連のアイテムを作ってほしいという依頼を受け、歴代の横綱名の入った湯呑み、マグカップや、相撲土産(出物)のOEM製作を始めることになります。事業は兄弟横綱のブームもあったことから順調ではありました。
特化したOEM製作やギフト商品などの卸事業は安定していたものの、バブル崩壊、そしてリーマンショックを目の当たりにしたことで、外的環境に影響されない自社主体での事業を考えるようになります。
その事業のヒントは意外なところにありました。
ちょうどその頃に自宅を新築することになり、新居の食器などの見直しを始め、揃え方、収納や手放し方などのノウハウが必要となり、ネットで情報を調べるようになったのです。その時にふと、同じように困っている人たちが大勢いるのではないか、と気づき、自社でネットショップを起ち上げることを決意します。
まず手始めにオークションサイトで販売を経験。その後2007年に大型Eコマースモール楽天市場に「ナチュラル和洋食器 うつわやさん」という店舗名で出店を果たし、カネ忠の2本柱を、卸と自社販売サイトへとシフトチェンジしていくこととなるのです。
顔の見える、お客様の声と共にあるお店づくり
出店時、Eコマース業界は「出せば売れる」という時代では既になくなっていたこともあり、売上確保のために、試行錯誤を繰り返します。広告などを打ち出し、効果的と思われることはなんでも試したといいます。
ただ膨大な時間と労力をかける中で、何かが違うと感じていた須藤氏。糸口を見つけるために、セミナーや勉強会などに足しげく通い、経験者からの意見をとにかくたくさん聞いたといいます。
導き出した答えの一つが、「お客様の声を聞き、店主の顔が見える店舗にする」ことでした。
お客様の声を細やかに聞くことができる機動力は、中小企業ならではの強みであり、顔を見せることでお客様からも安心され信頼感が増します。自らが顔を出し、「情報発信」と「お客様の声を聞く」スタイルは、この時に生まれたのです。
お客様からのアンケート収集を積極的に行い、困っていることはなにか、何がわかれば助かるかなどの、声を聞くことに重点を置きました。そうして聞こえてきたのが、「選び方、収納方法、手放し方がわからない」という声でした。
収納に着目した須藤氏は、2012年にライフオーガナイザー1級の資格を取得。
ネットショップのお客さまを中心に、お客様のお悩みに答える情報発信を始めます。すると、収納や手放し方などを中心としたセミナー依頼が急増、講演やメディア出演が増え、多忙を極めることになります。
想像以上の依頼をいただいたため、現在は本業である卸と、うつわやさんの運営に軸を戻し、「器に関する情報発信」にのみ特化したセミナーを社会貢献の一環として行うに留めているといいます。
「お客様の声」を反映させた商品展開。オンラインショップでのお客様満足度は、レビュー・評価共に非常に高い。月間優良ショップ賞も何度も受賞するほどの実力
継続的に発信しつづけるチカラ
須藤氏の情報発信の特徴的なものが、動画によるコンテンツ配信で、準備から撮影まですべて須藤氏が執り行っています。
お客様の「いま知りたい」トピックが旬で取り上げられ、丁寧かつ端的に解説する動画はわかりやすく、12万回以上再生されているものもあります。また、やきもののリアルイベント役立ち情報や書籍の紹介まで、関連があれば幅広く取り上げ、間口の広い構成になっているのも魅力の一つです。
始めた初期の頃は生放送配信をしていましたが、段階を経て動画配信サイトへ、そしてコロナ期にはショート動画を月~金と必ず更新するようになりました。
情報を継続的に、それも一週間に数回に分けて発信し続けることは、販売業務を行う中で決して容易な事ではなく、発信者側に強い原動力が必要です。AIなどを駆使しながら発信を続ける須藤氏に、その原動力の源を尋ねると、新しいことを学ぶことが好きな性格で、チャレンジし続けることが楽しいと、目を輝かせながら話されたのが印象的でした。
現在は、卸とネット業務が多忙であることから、動画配信は、構想を温めながら次の段階に向けての準備中だといいます。
情報発信が直接的に売上につながるものではないという難しさはありながらも、情報発信のチカラを重視し、いち早く着手した須藤氏。多種多様な情報発信が飛び交う中で、徹底的にこだわっているのはコンテンツの内容です。
流行りのもの、お洒落なもの、映えるものを伝えるのではなく、あくまで基本にこだわる。
商品の紹介だけではなく、その器をどう扱うのか、何が良いのか悪いのか。
万人に伝わる基本的な、実用的な情報を、必要とする方々に届けること、それこそが須藤氏だからこそできる情報発信であるといいます。
情報発信の準備から発信までが行われるスタジオには、使い勝手のよい器が所狭しと並べられている
陶産地もジャンルも飛び越えて自分が良いと思うものを紹介する
やきものが全体的に盛り上がるのならと、他産地のやきもの情報もどんどん発信し、エリアにこだわらなくてもよい、良いものは良い、悪いものは悪い、と本音で伝えることこそが大事、そう言い切る須藤氏。
陶磁器業界では、日々新しい商品が生まれていますが、うつわやさんでは、その商品はあえて外すこともあるといいます。
何十年も前にあった定番の器でロングセラーといわれているものを、実は知らない人たちがまだまだいます。それらを紹介することで、こんないいものが昔からあるのだと、お客様が知り、喜んでくれる、その姿を見ることこそが喜びだといいます。
誠実にお伝えすることで、お客様から率直なフィードバックをもらい、自社の商品展開に反映させていく。応援するからこそ応援される、この言葉はまさに店作りにも体現されていると感じました。
「楽しく選ぶお手伝い」を極める
20年前から積み重ねてきた経験と信頼は、器に関する情報発信者としては他の追随を許さないほどの地位を確立したといっても過言ではありません。
コロナ禍ではありましたがNHK総合テレビ東海北陸6県ネットの30分枠番組でセミナーの内容を簡略化して生放送したことが一番のご褒美だったかな、と語る須藤氏。
食器アドバイザーとして、第一線で活躍してきた須藤氏が考える今後の展開、それは、楽しく食器を選ぶお手伝いをさらに追い求めていくことです。
器の選び方、収納、手放し方のセミナーを定期的に行う機会や、陶磁器の店を解説付きで巡るうつわツアーなどをまた復活させ、増やしていきたいと考えています。
メーカーや国など、特定の食器に絞るのではなく、「日常の器」について、器そのものだけでの話ではなく、その先の文化まで伝えられる、普通の食器屋さんでありたい。
相手の望むものを望む形でお届けする卸業、女性顧客を中心に使いやすく収納しやすいものを届けるネット販売、どんな人でも受けられる器セミナーやツアーなど、「つなぐ・届ける・伝える」の3つのキーワードでさらに展開していく。
積み上げてきた経験と実績があるからこそ、言葉や情報に説得力と重みがある、須藤氏の持つ「発信のチカラ」を強く感じたお話でした。
「食器アドバイザー」「すーさん」、多くの名称で様々なメディアに出演。基本的な情報を、必要な人たちに向けて発信する
【企業情報】
有限会社カネ忠
〒509-5401 岐阜県土岐市駄知町2418-2
TEL: 0572-59-5140