手づくりの素朴さに日本のわびさびを想う
信楽焼

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風土

たぬきの故郷は、風さわやかや高原

愛敬たっぷりのたぬきの置き物で知られる信楽は、琵琶湖の南部、三重県・京都府に隣接する標高380mのさわやかな高原地帯です。自然にあふれた田園風景ののどかさが、いかにも素朴な信楽焼の故郷にふさわしい。室町時代より多くの茶人に愛され、手づくりの素朴な美しさが独自の伝統工芸として、永い歴史の中で受け継がれてきました。742年、聖武天皇が都を製造するために建てた、紫香楽宮の屋根瓦が始まりと言われている信楽焼の歴史は、信楽の町の歴史と重なります。

歴史

1250年の伝統と技がおりなす信楽焼

日本六古窯のひとつである信楽焼は、1250年の伝統を誇る日本最古の産地です。紫香楽宮の屋根瓦として焼かれたのが始まりといわれる信楽焼ですが、都は大火で消失し、室町後期の茶陶が興るまでは、種壷やする鉢などの日用雑器を作る窯として、農民の手で細々と受け継がれていました。釉薬を使わない土味をいかした、ぬくもりを感じさせる素朴な風合いの中に、多くの有名茶人が簡素美を見いだし、茶陶信楽焼として脚光を浴びました。しかし、信楽が現在のような大きな窯場になったのは明治に入ってからであり、また、火鉢や灯篭などの庭置きづくりが盛んになったのは大正に入ってから。さらに、火鉢や植木鉢に「なまこ釉」などの窯変釉薬を施したり、模様を描いたりし始めたのは、実に昭和に入ってから。このように信楽焼は、時代とともに返還し、常に時代とともに進んできました。即ちそれは、他の伝統的な窯業な町とは異なったあり方をしていると言えます。

現代

信楽の土は大もの製作に最適

素朴な美しさで、一時、茶陶として注目された信楽焼ですが、まもなく藩窯の伊賀焼にその地位を奪われました。その後はもとの日用雑器に戻り、現在は、耐火力、保温力に優れた信楽の粘土より、植木鉢、花瓶、傘立、庭園用品、狸などの置物、食器、タイルを生産し、とくに適度な吸水性のある粘土は植木鉢に適しています。

商品紹介
信楽焼たぬきのいわれ

コラム

「わび」「さび」を残す信楽焼

白く小石の多く混じった土肌。肌色の地に焼成時にできる炎色(ひいろ)と呼ばれる赤い焦げ目。また、焼成時の温度により、緑色や淡黄色の自然釉がかぶさったり、胎土に含まれる長石粒が溶けて乳白色の斑点がでてきたり。このように、素朴であたたかい情感をもつ信楽焼の中に、茶人たちは独特の美を見い出し珍重しました。人がうずくまっている姿に似た小さな種壺「蹲(うずくまる)」、豆などを入れておく筒型の壺に「旅枕(たびまくら)」など風流な呼び名を付け、花瓶などに見立てたそれらは現在も、当時の「わび」「さび」の風景を表現する名器として残っています。

「たぬきの置物」誕生秘話

『信楽』と聞いて、あみだ笠に酒徳利片手のたぬきの置き物を連想する人は多いはず。確かに、信楽の町に入るやいなや、どこに行ってもたぬきに出会います。いったい誰が、いつ頃作り始めたのでしょうか。作者は、藤原銕造、号狸庵。幼くして京都の清水焼の窯元にあずけられた狸庵は、10歳の月夜の晩、ポンポコポンと腹鼓を打ち興じているたくさんのたぬきの姿を目撃したことからたぬきのとりこに。生態や習性の観察をするうち、ついにはたぬき像の製作に打ち込むようになりました。本格的なたぬき像の製作は、京都から信楽に居を移した昭和10年頃から。このたぬき像を食堂などの店先に置くと、評判となって人が集まるので「客を招く」「福を招く」縁起物として喜ばれるようになったそうです。

忍者の故郷は土鍋の里―伊賀

信楽から一山越えて、背中合わせにある伊賀焼の里・丸柱は、わずか18軒の窯があちこちの山ふところに散在するのどかな山村です。また、伊賀流忍術の発祥の地でもあり、歴史あるところです。伊賀焼の歴史も古く、いろいろな文献からみても信楽焼と同様、約1200年の伝統を持つと言われています。安土桃山時代には、織部門下の茶人・筒井定次が領主になって茶陶を始め、次代の藤堂高虎、高次親子が奨励して次々の茶器・花器の名器が作られましたしかし、藤堂3代高久の時代に白土山陶土採掘が禁じられたことから、伊賀焼は衰退していきます。江戸中期に「再興伊賀」がおこりますが、日用雑器中心となっていきます。「伊賀に耳あり、信楽に耳なし」とは、伊賀と信楽の水指を区別する時によく言われる言葉ですが、実際どちらのやきものも地続きの土地なのでよく似ています。ただ、丸柱の土の方が耐火度が高かったので、現在、雪平や土鍋の産地として全国に名を馳せています。

愛敬たっぷりのたぬきに迎えられて

登り窯が連なる丘や町のあちらこちらで見かけるたぬきの姿に、どこか郷愁を覚える信楽の町。のんびりしたたたずまいの町の散策だけでも、陶芸の里を満喫できそうです。他のやきもの産地と同じように、信楽にもいくつかの資料館がありますが、中でもおすすめなのが平成2年にオープンした『陶芸の森』です。自然林におおわれた小高い丘の斜面を利用した敷地内に、展示館やレストラン、野外展示場などが点在。とくに、コンサートやイベントに会場として活躍しそうな野外ステージは、注目のスポットです。

産地の団体

信楽陶器卸商業協同組合
https://shigaraki.shiga.jp/
信楽陶器工業協同組合
http://www.shigaraki.org/