美濃焼「器を通して生活を楽しむ」ライフスタイルを提案する卸小売店を取材
日本最大の陶磁器生産拠点
飲食用(業務用)食器生産日本一の土岐市の北部に「織部ヒルズ」と呼ばれる場所があります。土岐美濃焼卸商業団地(協同組合土岐美濃焼卸センター)は、産地の陶磁器卸商社が軒を連ね、道の駅も併設されている一大商業エリアです。
藤田陶器株式会社は、業務用食器の卸売りも行いながら、小売店「Felice」を運営するライフスタイル提案型の卸小売店です。
自分の感性を信じ、自分が楽しいと思える会社作りを実現した、代表取締役社長の藤田裕子氏にお話しをお伺いしました。
「自分が継ぐ」という強い想い
藤田氏で3代目となる藤田陶器株式会社は、1948年に設立、今年で76年を迎えます。藤田氏の祖父は、戦後まもなく岐阜県の各務原から土岐に移り、ある卸商社に番頭として就職した後に独立、「丸八」の名で会社を興し、土岐の駅近くに店を構えました。
その後、父の代で協同組合土岐美濃焼卸センター団地(織部ヒルズ)が建設されると、第一次入居者として現在の場所へ移転することとなります。山を切り開いて建設された団地の第一期入居者は28社でした。この卸団地の企業が中心となり、「日本三大陶器祭りにする」という目標を掲げて始まったのが「土岐美濃焼まつりです。今では毎年ゴールデンウイークに開催される土岐美濃焼まつりは、その言葉通り、日本陶器祭りの三大祭りとして現在まで続いていいます。
美濃焼を盛り上げてきた祖父や父の背中を幼いころから見ていた藤田氏は、3人姉妹の長女。小学校のころから陶器祭りを手伝い、飛ぶように売れていくのがうれしくて、その頃からすでに父の仕事を継ぎたいと思っていたといいます。そして学校卒業後、陶磁器メーカーで5年ほど勤め帰郷、家業を手伝いはじめます。
「萌える」ことが大切な判断ポイント
当時は和食器だけを取り扱っていた会社ですが、やっているうちに藤田氏の中で、もっと自分が「萌える」器を取り扱いたい、雑貨もやりたいと、ときめきや楽しみを取り入れたい想いがどんどん強くなっていきます。
ちょうどその頃、隣接する道の駅「志野・織部」の賑わいを呼び込むため、組合が卸団地を「織部ヒルズ」と称し、団地内の企業が特長のある店舗作りを始める動きが活発化していました。
そこで、藤田氏はその萌える想いを実現するために、2009年(平成21年)に「Felice(フェリーチェ)」の名で小売店をオープンさせます。当初は、会社倉庫の一画を仕切っただけの、とてもシンプルな、ひとり店長としての事業でした。
取り扱いの絶対的なポイントは「自分が萌える器かどうか」。これに必ずこだわり、自らの目利きで商品を仕入れ販売していきました。
そして2016年。本格的に家業を継ぐこととなり、女社長としての第一歩をスタートさせます。業界に女性経営者が少なかったこともあり、女性目線での意見を聞きたいと重宝されることも多く、貢献できることをうれしく思うといいます。
五感を使って体感し、生活に取り入れる
社長になってすぐに行ったこと、それは倉庫の一画にあったFeliceの店舗を、事務所のある広い場所へと移転するべく、社内を大幅に改装したことでした。
事務所内にあった社員食堂も、教室・イベント・写真撮影などが行えるキッチンスタジオへと変えることにします。社長就任直後にも関わらず、大胆で思い切った大改革に、心配や反対の声も大きかったといいます。
しかし、石橋をたたくのではなくまずやってみる、という持ち前の性格だったことや、そうすることで見えてくる会社の未来があったため、自分の意思を貫く覚悟で挑みます。
広々と取られたキッチンスタジオの棚の数も8段。祖父が築いた丸八の「八」への敬意と愛が微細なところにまで広がる
藤田氏の描いていた店は、器をただ手に取ってみるだけではなく、実際に料理を盛りつけることで使い心地や魅力が体感できる、そんな場所でした。だからこそ、商品を売るだけでなく、楽しむところまで伝えられることを大切にできる店にこだわったのです。
実際、Feliceで販売している商品は、キッチンスタジオで開催される料理教室で実際に使用されています。そこで使う時の感触を体感してもらい、気に入ったら購入してもらう。これこそが藤田氏が目指した販売から提案までをトータル提案する店舗です。
The best way to cheer yourself up is to try to cheer somebody else up.
~自分を元気づける一番良い方法は、誰かほかの人を元気づけてあげることだ~
『トム・ソーヤの冒険』マーク・トウェイン著より
これは、藤田氏が心に刻み付けている言葉で、そのモットーは、店舗のあらゆる場所や場面でエッセンスが散りばめられています。
提案した商品を気に入ってもらい、「あなたにお願いしてよかった」と言われることは氏にとってこの上ない喜びで、Feliceはまさに使い手のための店づくりを体現しているといえます。
メーカーと商社がタッグを組んでブランドの価値を高める
就任当初から自社を変化させてきた藤田氏。
現在、美濃焼、そしてやきもの業界全体を向上させていくために何ができるかを考えています。
企業それぞれの努力だけでは限界がある、それならばメーカーと商社がタッグを組んで、美濃焼のブランドの価値を高めていける仕組みを皆で作っていけばいい、と考えています。
現在、卸団地に入居している企業のほとんどは起ち上げ当時から変わっておらず、親から事業を受け継いだ同年代の経営者が増えてきています。小さい頃から一緒に育った同世代が、藤田氏の考えに賛同し、いま団地内(土岐市内)で新しい挑戦がすでに始まっています。
その中の一つ、10月に開催される「うつわさがし」プロジェクトは、作り手と使い手をつなぎ、未来へと残せる形を模索する、土岐市全体でのやきもののイベントです。
発起人の一人である藤田氏は、このイベントを足がかりとし、美濃焼、ひいてはやきもの業界の力になっていってほしい、と願っています。(「うつわさがし」https://utsuwa-sagashi.com/)
Feliceの店内の壁や床には、あちこちに「八」の字が埋め込まれています。八は、丸八の八。道を切り開いてくれてきたことへの感謝と、初心を常に忘れずに、見える形としてお店に置いています。
先代である父と会社で机を並べて座っていた頃、藤田氏のやりたいことをやらせてくれた先代。娘の事を心配する親の気持ちをおさえ、同じ志を持つ商売人として応援してくれた、その姿勢や教えが現在の藤田氏を形成しているといいます。
3年前に他界されたものの、今でも残っている先代のメモ書きなどを時には見ながら、その想いを胸に、自分の心ときめく器たちと日々向き合っています。
自身にとってのやきものとは
自分を育ててくれた血肉でありアイデンティティです。
土岐市で生まれ、産地問屋を生業とする家で育った自分にとって、やきものは血肉だと断言する藤田氏。
幼いころにすでに継ぐことを決め、言葉通り家業を継ぎ、自分の信じる会社を形成していったその姿勢。
やきものそのものがアイデンティティであると言い切るその姿に、ぶれない強い想いがあると感じました。
美濃焼の業界に少しでも貢献できるために企業努力を続けていきたい、という強い気持ちは、次にどんなものを生み出すのか、そして仲間との化学反応によってどう進化していくのか。穏やかな口調でありながら発せられる言葉に、熱いエネルギーとわくわくする未来を想像させてもらえるインタビューとなりました。
【企業情報】
藤田陶器株式会社
〒509-5171
岐阜県土岐市泉北山町2丁目4番地 土岐美濃焼卸商業団地(織部ヒルズ内)
TEL:0572-55-2611