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使い込むほどに味が出る
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四日市で焼かれる萬古焼
波静かな伊勢湾に面した四日市は、明治初期、近代工業の発展に伴い、今や三重県最大の工業都市となりました。工業の発展とともに、たくさんの地場産業も活性化し、その中のひとつに萬古焼があります。消費者のニーズの研究、市場調査、技術革新など、熱心な生産者らの努力が実を結び、次々に新商品が誕生しています。
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萬古焼発展への4つの変革
萬古焼の歴史を語る時、4つの大きな変化を見逃せません。始まりは今からおよそ240年前の18世紀中期頃、沼波弄山が四日市近郊の小向村に窯を築き、茶道具を焼き、萬古焼を生み出すきっかけになったといいます。永久に伝わるべきものとして「萬古」と名づけ、特に弄山の作品を古萬古と呼びます。京焼の乾山の流れをくむもので、斬新な図柄に大きな特徴がありました。弄山の後、一時途絶えた萬古焼を復活させた森有節、千秋兄弟の有節萬古。後の四日市萬古や桑名萬古は、いずれもこの有節萬古の流れをくみます。水害で困窮民が続出した四日市を再興するために、地場産業として山中忠左衛門が発展させた明治萬古。私財をなげうって20年に近い歳月をかけて成功させたといいます。そして、半磁器という新しい製造を成功させた水谷寅次郎の大正萬古。伸び悩み状態にあった四日市の陶磁器工業を製陶産業は急速に発展し、現在では土味を生かした食器も多く生産されています。
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萬古産地の主流を形成する土鍋
技術開発の成果として誕生した大正萬古は、四日市に一大エポックを画するものでした。この大量生産方式による大正萬古の登場で、大型土瓶など大物をはじめ、各種の製品が作られました。そんな中で、萬古焼の鍋食器は、戦前よりいくらかは生産されていましたが、昭和30年代に超耐熱品の陶土が開発され、割れない耐熱土鍋ということで全国的に好評を博し、萬古焼の知名度を高めました。現在では、全国シェアの80%を超える主生産品になっています。また、生け花の各流派家元と提携して各種の変形花器が数多く製作されていることも見逃せません。とくに、洋風の果物置からヒントを得て創作した「コンポート」と称する台付水盤が有名です。
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伝統を継承する急須
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使えば使うほど渋い光沢が出る紫泥の急須は、萬古焼の代表格。最も古くから作られてきたものです。この紫泥とは釉薬を使わずに焼きしめた濃い茶褐色のやきもので、焼き肌が紫がかって見えます。陶土は四日市近郊の山から採った、紫色の粘着性が強い良質のもの。これを使って無釉強還元焼成、ろくろ成形、押し型成形。手びねり成形、ひも作りなどさまざまな技術が駆使されています。また、半磁器、半磁器と磁器の中間の炻器の生産が多いことも萬古焼の特徴です。
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萬古のまち、四日市。
ここ三重県四日市市は、県下有数の商・工業地域であり、伊勢湾と鈴鹿山脈に囲まれた、美しい四季と自然に恵まれたまちです。東に世界的に知られる石油化学コンビナートを擁する一方で、西部の水沢地区には全国三位の生産高を誇る「伊勢茶」の産地が広がり、市の中心部から北には、陶磁器メーカーや問屋が軒先をならべる萬古の里があります。このお茶どころと有名な急須の産地があることが、四日市で「水沢の茶を萬古の急須でいれよ」といわれるゆえんです。まちを歩けば、陶磁器の買い物や陶芸教室も楽しいもの。このほか、萬古まつり、土鍋コンペティションや土鍋供養なども開かれています。
萬古のまち、四日市。ふらりと訪れてみませんか。
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- 萬古まつり
- 例年5月の第2土・日曜に開かれる廉売市が「四日市萬古まつり萬古まつり」。四日市に萬古焼をもたらした先人たちの偉業をたたえる“萬古神社”の大祭に協賛して開かれる市で、萬古焼業者らがこぞって大安売りを繰り広げることで知られます。市価の3~7割引は当たり前!という大サービスに、10万人以上の人出でにぎわいます。
- 土鍋供養祭
- 全国シェアの80%以上を誇る、萬古焼の土鍋。使い古した土鍋に感謝する供養祭が、毎年10月に開かれます。この土鍋供養祭では、使い古しの土鍋や陶磁器を持ち込むと、ばんこの里会館のショップ「うつわ亭」で使用できる金券と交換しています。土鍋への感謝とともに、市民への感謝の意味も込められた行事です。