美濃焼「日本発信の洋食器」プロ仕様の自社ブランド構築に成功した商社を取材

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磁器食器の生産で、現在国内シェアの半数以上を誇る美濃焼。
長い歴史を持つこの地域には、伝統を残しつつ、自分たちの独自スタイルを切り開いてきたメーカーや商社が建ち並びます。

その中の一社、株式会社丸東は洋食器を中心とした開発・製造・販売を行う商社です。
トレンドや顧客のニーズを意識しながらも、創業当時から一貫して洋食器と共に在り続け、STUDIO010(スタジオマルイチマル)の名で進化を遂げてきた、三代目代表取締役社長 倉知隆行氏にお話しをお伺いしました。

創業から貫く洋食器を主軸とした展開 

1946年創業、今年で78年目を迎える株式会社丸東は、多治見の老舗大手陶磁器関係に勤めていた隆行氏の祖父が設立、氏で三代目となります。
創業当時から商社として洋食器メインに、ホテル・レストラン向けに販売をしており現在でも変わらず洋食器を主軸とした展開を行っています。

年代は定かではないものの、先代までの時代には、自社に上絵付用の窯が設置されます。
これによって展開領域は大きく広がり、取引先の店名ロゴを入れたOEM製造などが行えるようになりました。

1960年代以降になると、海外への輸出が事業構成の約4割を占めるほどに成長、アジアやアメリカをはじめ、ファーストクラスの機内食用食器として航空会社にも食器を卸すようになり、海外との貿易を積極的に行います。

学生時代に渡米し、ジュエリーデザイン学校でデザインや作り方を学んでいた倉知氏。
継ぐことは全く意識していない中で、図らずも事業を継ぐこととなり帰国します。

まずは商品などの基礎を学ぶため、梱包や検品などの現場に従事した後、30歳の頃に営業部へと異動。
営業に慣れ始めた矢先の32歳で先代が急逝、事業を継承することとなります。

自社ブランドの構築

倉知氏が会社に入ってしばらくした後にバブル崩壊が到来、その波は窯業にもゆっくりと押し寄せていました。
継承後に不景気で業績が伸び悩む中、現状を打ち破るための施策を考えていた氏は、自社にオリジナル製品が一切ないことに気づきます。

それまでは、100%OEMの商社として事業を延ばしてきた丸東。
在庫を持たずに、確実な顧客から売上が見込めたOEMのメリットは大きかったものの、自社として何か新たな強みを持ちたい。

そう考えた氏は、社名の丸東(マルトウ)から命名した、自社ブランド「STUDIO010(スタジオマルイチマル)」を起ち上げることを決めます。
既に上絵付用焼成窯を持っていたこともあり、メーカーに素地製造してもらったものに、絵付けと焼成を行うという製造プロセスを構築。自社ブランド製品の製造に着手します。

当時、自社ブランドを作ることはまだ珍しく、比較的早いタイミングに首都圏などで展示出展などを行ったことで、新しい販路を開拓、ホテル・レストラン・飲食店・ハウスウェディングをターゲットとした顧客層を獲得、定着させていきます。

さらにもう一本の柱として、デザイナーによるファンシーカップなどの雑貨店向け商材の開発、OEMで人気キャラクターの絵付けを行うなど、自社の絵付け焼成窯のメリットを最大限に生かした展開も行っています。

料理と器 絶妙なバランスのデザイン

STUDIO010製品の特徴の一つが斬新さで、料理を引き立てるデザインは、取引先からも好評です。

ただし、やみくもに斬新すぎる器ではいけない、という倉知氏。

器は「料理を見せる/魅せる」ためにあります。
器のデザインが料理に勝ってしまわないデザインが重要です。

無地とデザイン柄、リム(縁)とリム無、サイズ感、それぞれの一番料理が映えるバランスのよいところを探す。
デザインに関しては、出てきたイメージに対して、要望やリクエストを氏自身も出すといいます。

プロ仕様の器と向き合ってきたからこそわかる、絶妙なデザイン、顧客ニーズに合わせた商品展開。
厳しい目を持つ顧客の要求を満たす、クオリティの高い製品を作り続けているからこそ、STUDIO010ブランドはプロ達に愛され続けられているのだと感じます。

日本発信の洋食器を作る

最近の陶磁器トレンドは、和テイストのナチュラル系のアイテムが国内外問わず人気で、海外でも製造されるほど、今や和食器は当たり前になっています。

だからこそ、あえて洋食器にこだわりたい。
需要は一定数あると思っているので、今後の展開として、海外でも通じる「日本発信の洋食器」を作っていきたいという想いがあります。
海外に輸出する洋食器を増やしていくことを実現させていきたいといいます。

自身にとってのやきものとは

私たちにとって「なくてはならない」ものです。

器は、より料理をおいしく見せたりするものです。
もちろん陶磁器以外の素材にも良さはありますが、やきものは料理を生かし、美しく見せることのできる素材です。

昨今、軽さ、扱いやすさ、割れにくさなどの、実用性を追求した器もたくさん開発されています。
それ自体を悪いとは思いませんが、器本来の役割というものを今一度、消費者だけでなく作り手も改めて考えることも必要かもしれません。

器を使うということは文化であるということ、「食べる」という営みの中で陶磁器の持つ本質的な役割などを、窯業に携わる私たちがもっと発信していかないといけないと思います。

そのように、一言ずつ丁寧に紡ぐ言葉の中には、料理と器に対する氏の哲学を感じます。

料理は五感で愉しむもので、器はそのステージであるという倉知氏が率いる、STUDIO010による「日本発信の洋食器」の今後の展開。
一人の洋食器愛用者として、STUDIO010の洋食器に世界のどこかで出会える日が、非常に待ち遠しくなるインタビューでした。

【企業情報】

株式会社丸東/STUDIO010

本社: 〒507-0071 岐阜県多治見市旭ヶ丘10丁目6番72 
TEL: (0572)27-8851
HP: https://www.studio010.net/publics/index/3/

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