常滑焼  まちの駅から「常滑」を届ける卸小売店を取材

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愛知県知多半島の常滑市。
やきものづくりに適した土と、窯を設けやすい緩やかな丘陵地帯、水上輸送のやりやすい地形から、六古窯の一大産地として、質の高い製品を日本各地へ出荷してきた歴史を持ちます。

茶碗類の生産から始まった常滑焼は、やがて甕(かめ)などの大物づくりに至るまでを製造するようになります。
そして常滑焼を代表する急須。

常滑焼の陶祖といわれている鯉江方寿(こいえほうじゅ)らが、急須づくりが盛んであった中国の江蘇省宜興(ぎこう)の職人を招いて、成形技法(パンパン製法)を学んだことから、常滑焼朱泥急須は大きな発展を遂げます。

窯業が上向きだった時期に、誰よりもいち早く卸小売業一本へと舵を切り、周囲を驚かせたのがその地に店舗を構える、株式会社ヤマタネです。
生地屋としての製造事業を経て、時代の流れを機微に感じた先々代。
その想いを受け継ぎ、地元との連携、地域への貢献を胸に事業を営む、四代目 代表取締役社長 伊奈義隆氏にお話しをお伺いしました。

ヤマタネの始まり

昭和50年頃は園芸ブーム。常滑にも園芸鉢専門の工場が10軒近くあったといいます。
当時、苗や植木の鉢はやきもので作られており、常滑をはじめ各地で作られていた鉢は、取り合いになるほど人気でした。

伊奈氏によると、窯から焼き上がってくる鉢を販売業者が目の前で待ち構え、そのまま自分たちで梱包して運搬するほどの需要で、絶えず入る注文に生産が追いつかない状態でした。

事業も軌道に乗り、道筋も見えてきたある日、二代目はホームセンターの園芸売り場でプラスチック鉢での販売が始まったことを目にします。
それを見た二代目は、プラスチックが市場の主流になっていくことを瞬時に悟り、生産部門から完全撤退し、卸小売業へと舵を切るという決断を下します。

当時はまだやきもの鉢の需要も順調だったため、二代目の決断に周りの同業者は驚き、戸惑いを隠せなかったそうです。
しかしこの裏には、自社で製造せずとも、常滑市内に点在する多数の製陶所から必要な商材は十分に確保できる、という二代目の勝算があってこそのものでした。

1982年、製陶所から焼き物商材を仕入れ、卸業者として全国へ出荷する業態へと転換。
そして昭和最後の年でもある1989年(昭和64年)に3代目が店舗を開業し、現在の店舗の形になりました。

現在、代表取締役社長の伊奈氏は四代目。
常滑で生まれ、自社工場は保育園帰りのあそび場でした。
余った粘土などを使って何かを作り、釉薬の入った甕に粘土を浸して置いておくと、窯焚きの職人が一緒に窯に入れて焼成し、翌日には出来上がったものを置いてくれていた、という記憶があるほど、幼いころからやきものに触れていたといいます。

3人兄妹の長男だったため、跡を継ぐということはなんとなく意識していたものの、一時は総合小売業に就職します。
しかし、家業の男手が少なかったこと、学生時代に地域研究や活動などに取り組んでいたこともあり、帰郷を決めます。
戻った当初は産業自体が盛んだったこともあり、来店客や注文数などもありましたが、しばらくすると冷え込みの時代が到来。
先代とは違った手法が必要となり始めた1995年(平成10年)、次の一手を考えるタイミングがやってきます。

外部との交流がアイディアと行動を生む

その時にヒントや学びを与えてくれた出会いのひとつが、日本陶磁器卸商業協同組合連合会青年部への参加でした。
くしくも2005年に愛・地球博が愛知県で開催。
さまざまな陶産地の人が訪れ、顔を合わせたことで横のつながりが生まれ、交流が始まります。

植木鉢や急須などがメインの常滑とは違って、他産地は食器がメイン、それだけでも様々な気づきがあったという伊奈氏。
磁器製造が多く、生産量も圧倒的に多い美濃焼などから、製造方法や転写などの話を聞く。
こういう情報は、地元にいては見えてこなかったといいます。

外部の情報や話から、新しい手法として取り組んだものの一つが、大型商業施設への出店です。
「常滑ドットコム」という名で、イオンモール常滑の1階に常設店舗を構え、招き猫や急須などをはじめ、地元の厳選商品を取り揃え販売。

各地から人が集まる施設に出店することで、常滑焼をよく知らない幅広い年齢の客層にまでリーチできるというメリットがあり、認知度アップにも役立っています。

実は常滑は招き猫の二大産地の一つ。二頭身でふっくらとした可愛いデザインが特徴で、ヤマタネではバリエーションに富んだ招き猫を展開しています。
商売繁盛のアイテムとして、店舗(おもに飲食店)に飾られるようになっており、窯元によって眉や目の入れ方が違うため、それも楽しみ方の一つだといいます。
最近まで1軒の窯元のみで製造されていましたが、近年になって他の窯元でも製造されるようになっています。

外部との交流は、その他にも海を越えた中国とも行われています。
常滑の特徴である朱泥急須は、1878(明治11)年、既に急須づくりが盛んであった中国宜興での製法を伝授してもらったことから発展しています。
二都市間での交流はいったん途絶えたものの、2010年代に交流が復活。
2016(平成28)年には「友好交流提携」が締結し、現在は毎年、それぞれの都市を行き来するほどとなっています。

近年、常滑の急須は海外からも注目されていることもあり、この交流が常滑にとっても良い弾みとなり、(株)ヤマタネでも茶器が人気の中国、台湾、東南アジアにへの輸出が増えているといいます。
鋳込み量産型の萬古焼とは対照的に、常滑焼は轆轤による手作りが主流。
1万円以上の高額なものが人気で、店舗に立ち寄るインバウンドの観光客団体も多いのが特徴です。

「見て・作って・味わって・買って」を体験できる店づくり

これからの時代、ものを売るだけではなく、「食べる」ということを、トータル的に提案できる存在にならなくてはいけない、と感じた伊奈氏。
2022年(令和4年)にヤマタネは「まちの駅」としての新たな一歩を踏み出しました。

まちの駅とは、地域住民や来訪者が自由に利用できる、休憩場所や地域情報を提供している公共的空間を指します。
運営機関へ申請後、条件を満たしているかの認定審査を経て、名乗ることが認められるものです。

もともと、地理的にも国道に面しているヤマタネの店舗周辺には、ガソリンスタンド、コンビニなど、全てがそろっているアクセスが良い立地でした。そのメリットを最大限に生かして、広い敷地内に大型駐車場やトイレなどを併設。
審査を経て常滑の「まちの駅」として認定されます。

観光バスなどで乗り入れた訪問客が最大限楽しめるように、店舗の中にば見どころスポットや陶芸スペースを設置しました。
陶芸体験では、滞在時間によって誰でもが参加しやすいコースが3つもそろえられており、全国的にも小売店規模としてはかなり珍しい、一度に130人が体験できる規模の大きさです。

また地元の和菓子など、常滑の特産品を常設販売することでどんな人でもお土産が買えたり、休日にはキッチンカーを誘致しイベント開催を行ったりなど、訪れた人が何かを体験できるような店づくりとなっています。

まちの駅を通じて地域を活性化させる

食に対する取り組みやイベントを、「まちの駅 ヤマタネ」で深堀りしていくことを今後の展開として考える伊奈氏。

「見て・作って・味わって」をまんべんなく、国籍を問わず、もっと楽しんでもらえるような取り組みを行いたい。
そのためにも、「まちの駅」としてのスタンスを強化していくというビジョンを持っています。

この新しいことを積極的に取り入れていく力は、常滑という地域に貢献したい、という想いが原動力の一つとなっているといいます。
学生の頃から、地域活性の取り組みに参加し、現在でもボーイスカウトや地元消防団など、地域の人々と関わる活動に積極的に参加しており、その姿勢は、やきもの業界でも顕在です。

過去には常滑陶磁器卸商業協同組合理事長、日本陶磁器卸商業協同組合青年部連合会長を務め、現在は常滑商工会議所副会頭として活躍する日々。

人に恵まれて、仲間がいたからこそ、ここまでやってこれたという、感謝の想いがあるからこそ、地域活性ややきもの業界に貢献できる仕事をしたい。
英断力に優れ先見の明があっただけでなく、常に人のことや産業の事を考えて行動をしていた先々代に尊敬の念を抱いており、自分も会社も貢献できる存在であり続けたい、という想いが大きな原動力の一つになっているといいます。

自身にとっての常滑焼の存在とは

常滑焼は、歴史が積み重なった上にできたものです。
1000年の歴史を持つ常滑焼が、「続いている」ということは、すなわち先人たちが先を見据えたものづくりを行ってきたからです。

1000年後の今、こうやって自分たちがあり続けられているのは、次に何を作るか/売るかを先人が切り開いてきたからこそ、という感謝と尊敬の念を忘れずに、持っているメリットを最大限に生かしながら、常滑焼を広めていければと考えています。

伊奈製陶㈱(現㈱LIXIL)の創業者 伊奈長三郎氏も常滑出身で、「地域貢献」の想いが非常に強く、その精神が地元に今でも根付いているという、(株)ヤマタネの伊奈氏。

お話をお伺いしていると、常滑焼に携わる人々の精神の根底には「地元還元」「地域貢献」という思いが、DNAレベルで根付いているのだと強く感じさせられます。

地域に対する愛着は1000年前から人々の心にあり、その想いが常滑焼の歴史と文化を支え続けた柱の一つであることは、間違いないと思います。
その地に暮らす人々がいる以上、その想いを受け継ぎ、次の1000年へと続く常滑ロードはきっとある、そう思わせてくれるインタビューとなりました。

【企業情報】

株式会社ヤマタネ

愛知県常滑市奥条7丁目56
TEL:0569-35-3233
まちの駅 ヤマタネhttps://www.yamataneshop.com/
常滑ドットコム https://tokonamedotcom.myportfolio.com/work

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