波佐見焼 顧客目線に寄り添い続ける老舗企業を取材
1599年の誕生後、江戸時代中期には日本全国に普及し、現在に至るまで私たちの生活に寄り添い続ける波佐見焼。
全国の家庭で日常の器として愛用されるようになったのには、小売店や百貨店が広く取り扱ってきたこと、
そしてその流通を支えてきた磁器問屋、作り手の存在が大きくあります。
時代とともに販売スタイルが変わる中、既存顧客のニーズに合わせた営業を続けながら、
独自の販売ルート開拓に取り組む奥川陶器株式会社。
現在6代目の代表取締役社長奥川正道氏にお話しをお伺いしました。
波佐見で二番目に古い歴史を持つ老舗陶磁器問屋
創業は1851年、波佐見で二番目に古いといわれている奥川陶器株式会社。
もともとは、登り窯が建ち並ぶ中尾山の地で卸商として商いを行っていました。
3代目の急逝後、しばらく休業期間に入りますが、4代目である奥川氏の祖父が中尾山から現在の場所へ移転。
昭和34年1月に新たなスタートを切ります。
当時は社内に赤絵窯(上絵窯)を持っており、窯元からもらった生地に赤絵を施す職人を抱え、
生産から販売まで行っていました。
6代目の氏は、卒業後に3年ほど異業種で働き、帰郷。
幼いころからやきものには慣れ親しんでいたものの、知識をさらに深めるため、まずは窯業センターで技術的なことを学びます。
そして、2002年、奥川陶器株式会社に入社、営業からスタートします。
入社当初はインターネットが今ほど浸透していなかったこともあり、陶磁器卸業界では、実物を持って取引先を回るというスタイルが主流でした。
取引先が全国の小売店や百貨店卸商社だったこともあり、奥川氏もサンプル品を詰め込み、1回の出張で10日間ほど、
年に5~6回全国を出張する日々が続きます。
色や形状がわかるように様々な商品を鞄に入れていたため、鞄の消耗が激しかったことが記憶に残っています。
多様化する取引先 管理の難しさ
時代の流れと共に、主流だった量販店から、オンラインを持つ小売店や海外の顧客へと割合が移行しつつある現在。
特にヨーロッパのバイヤーなどが、陶器への価値を見出し、発注も増えています。
2010年頃には、自社のホームページでのPRと販売を行うことを決意。
既存取引先とのバランスなど、様々な課題はあったものの、将来を見据えての決断でした。
自社でオンラインを始めた当初は、全て自身で行っていたといいます。
オンラインショッピングが主流となるいま、価格管理の難しさを実感しています。
例えば大手の販売サイトの中には、商品が自動的に割引されるシステムが導入されており、
意図しないところで商品の値引きが行われます。その逆に、高く転売されることも。
取引先以外の販売店が奥川陶器の名で販売していることもあり、意図しないところでの販売や
値崩れへの対策はいたちごっこなところもあるため、悩ましい問題です。
顧客の必要な形で情報を提供 ~情報のハイブリッド化~
そのようなデジタル化の流れの中でも、紙媒体がよいと多くの取引先から要望を受けるといいます。
卸が主軸の事業形態のため、紙面でのカタログ制作は避けられず、現在は新カタログ制作に取り組んでいます。
紙面の難しさは、いったん印刷してしまうと、変更が簡単にできないという点。
昨今は材料費の高騰などにより価格の変動も頻繁に起こるため、価格改定にも柔軟に対応する必要があります。
そのため、カタログ内の商品それぞれの横に2次元コードを掲載する、デジタルとアナログを組み合わせた方法で
制作を検討しています。
自分たちが良いと思うやきものを提案する
奥川陶器は波佐見焼と有田焼の産地商社です、という奥川氏。
それぞれの窯元が持つ個性ある製品の中から、お客様に合った形状、デザイン、価格帯のものを提案することを心がけています。
しかし昨今の社会情勢から、手ごろな価格であった波佐見焼でさえも、価格上昇は避けられません。
そのような事情も含めて、お客様に正直であることが大事だと考えています。
作り手と取引先に対して、真摯に向き合う姿勢。
価格が高くなったとしても薦める理由、それらを丁寧に説明することで、お客様に納得をいただきながら、波佐見や有田の良い商品を提供したいといいます。
その一方で、良い商品を作り続けること自体が難しくなっている現状もあります。
印刷技術や色釉などで波佐見焼の個性を出していきたい反面、高い技術力を持つ人材が減りつつある。
現在、多くの産地が抱えている問題の一つに、波佐見も直面しています。
形状で個性を作っていく
いずれは自社ブランドを展開することも考えている奥川氏。
オリジナル構想のポイントは「形状」だと考えています。
メーカーが持っている既存型(有り型)にデザインを施しても、「どこかで見たことがある」という既視感を与えてしまいます。
形状自体をオリジナルにしないことには、唯一無二のオリジナルにはなりません。
奥川陶器で、形状から作られたオリジナル商品、それが「ルーロボウル」です。
正三角形の各辺を円弧にして膨らませた図形「ルーローの三角形の定理」から、インスピレーションを受けて
氏が形状を設計した、唯一無二のオリジナル商品です。
浅型のボウルとなっていることで、おでんなどの汁ものなどや、料理をすくいやすい仕組みになっています。
それ以外にも、オリジナルデザインによる商品は多数あり、料理に馴染みやすい藍を基調にしたものから、釉薬を何種類かかけた「マッセ+Plus(プラス)」など、バリエーションは多岐に渡ります。
商品展開や構成を考える際は、営業部にいる6名のスタッフを集めて意見を取り入れながら取り扱いを決めていくといい、
多くの顧客と向き合うスタッフが持ち帰るフィードバックのもと厳選された商品が、取引先や自社オンラインで紹介されているのが
特徴です。
自身にとってのやきものとは
この問いに対してしばらく考えていた奥川氏から出た言葉は「つないでいくもの」でした。
現在、氏で6代目となる奥川陶器株式会社。
次の世代につなげていけるものであってほしいと願っています。
自分の子供が大きくなった時のために、いい環境を整えておきたい。
そのために、いま自分ができることは精一杯やっておこうと思う。
経営者の顔とは別の、幼い子供を持つ父としての側面を垣間見せた奥川氏。
波佐見の地に根付いた老舗陶磁器問屋として、お客様の気持ちに寄り添った丁寧な営業と、
唯一無二の形状オリジナル開発を実直に進めていかれる奥川陶器を、奥川氏のお人柄を通じて
感じることができた取材となりました。
企業情報
奥川陶器株式会社
〒850-3711
長崎県東彼杵郡波佐見町井石郷2229番地
TEL:0956-85-3333
HP: https://shop.okugawa-touki.jp/