波佐見焼 “お客様と会話ができる”モノづくりに取り組む企業を取材
日常食器として暮らしのそばにある波佐見焼。
そのモノづくりの精神と技術を受け継ぎながら、現代の食卓に合う器を提案する企業、団陶器株式会社。
人が集まり楽しいひと時を過ごす空間での器、日常でほっこりできる器など、「団欒」をテーマとした器づくりを続けています。
産地問屋であると同時に、“消費者のお客様とつながるモノづくり“にこだわる、三代目代表取締役の團浩道氏にお話しをお伺いしました。
縁により繋がれていく事業
1977年、團夫妻によって陶磁器卸売業として設立された団陶器株式会社。
初代が若くして逝去したため、その奥様が二代目として経営を担うこととなります。
その団陶器に、現取締役である浩道氏の父が番頭として勤めていました。
卒業後、消費地問屋に勤めていた浩道氏。
働き始めて6年ほど経った頃、跡継ぎが不在だった団陶器の後継者として波佐見に戻ってこないかといわれます。
当時、東京勤務だった團氏。仕事も慣れ始めた頃だったこともあり悩みます。
しかし幼い頃から身近だった存在の会社に思い入れもあり、これも縁と、三代目として事業を継承することを決意したといいます。
28歳の時でした。
入社後は、営業からスタートし、ともかく仕事を覚え慣れる。
そして二代目が高齢のため引退すると同時に、社長業を引き継ぎます。
バブル崩壊後の時代で、産業自体が厳しい中でのスタートでした。
お客様の声を直に聞くために
売上が伸び悩む日々は続きます。
試行錯誤を重ねる中で、実際に使う消費者であるお客様が本当に求めているものは何なのか、という問いかけを
自身にするようになります。
お客様の声を直接聞きたい、そう考えた氏は、自社オンラインサイト「団Life」と実店舗を立ち上げます。
オンラインでは、既存取引先との商品の棲み分け、写真構成、お客様の視線を意識した商品セレクトなど、
様々なことを模索しながら、自らが先頭に立って行いました。
また、会社の敷地内にオープンさせた実店舗は、波佐見に来た観光客や、オンラインで自社を知った顧客に
実際に手に取ってもらえる、訪れやすい店づくりとしました。
そうして自社で直販できる場所を持ったことで、気づいたこと。
それは品揃えの重要性でした。
卸問屋の供給先は百貨店や量販店など。
売り場の規模や展示スペースの都合上、おのずと売れ筋アイテムのみで成り立ちます。
しかし、自店はそれでは売り場が完成しません。
トータルでコーディネート演出ができるよう、売れ筋以外の商品を作る必要が出てきたことは、
今までになかった気づきだったといいます。
モノづくりのコンセプトは“お客様と会話ができる”もの
手描きかどうかや、価格を訴求する言葉では、もうお客様との会話は成り立たない。
自社で何が必要なのか、常に考え続ける團氏が行きついた答えの一つが、
独自性のある商品を作る
というものです。
型から商品を考案する。そしてそれが唯一無二であり続けるために、意匠登録という形で保護することで独自性を保っています。
たとえば茶漉し機能がついたティーポット。
お茶にこだわりがある人ほど、ステンレス製の茶漉しは敬遠されるという点に着目して、開発を行いました。
中に手を入れてしっかり洗える、洗いやすさもポイントのこの型は、意匠登録を行っています。
お客様の「あったらいいな」を「団陶器にしかないアイテム」として作る、それが團氏の考える唯一無二の商品です。
クラウドファンディングでも、様々な商品を想いと共に発信。
商品を通じてお客様と会話をし、“応援”という形で、お客様と一緒にモノづくりを行う。
出汁ポット、水切り茶碗、ボシドンなど、お客様に喜ばれる商品を地元の窯元と協力しながら、
これまでにいくつも作り続けています。
モノづくりが難しくなる時代
自社で販売をするようになってから、メイン商品以外の生産も必要となっているものの、
波佐見が抱えている“モノづくりの難しさ”が課題となっています。
生産を支える生地屋の減少で、メイン商品でさえ供給が追い付かず、常に足りない状態が続いているといいます。
限られた生産量を確保するために、売れ筋に絞ったモノづくりをせざるを得ない。
メイン商品以外のアイテムを、思うようになかなか作ることができないことに歯がゆさを感じるといいます。
また、作れる場所や人材が少なくなると、技術の低下が起こります。
手描きができる職人や技術は一度失われるとなかなか戻せない。
にも関わらず、現実は待ったなしで、歯止めがかからない。
波佐見だけでなく、窯業として抱えている問題には、地域の行政や国を巻き込んだ大きな動きにしていく必要があると考えています。
それでもモノづくりを続けていく
だからといって、厳しい現実を嘆くだけでは何も生まれない、何もせずに嘆くことだけはしたくない、という團氏。
海外も視野にいれている中、生地が入ってこないのであれば自社で賄えるようになればいい。
そう考え、自社単体で生地屋を吸収合併することを決意。
今後は自社で生地づくりをすることで、自分たちの描く独自性をもった商品の開発を、よりスムーズに行えるようになると
考えています。
取材中に「モノづくりは続けていかないといけない」と何度もおっしゃった團氏。
分業制である波佐見の窯業を存続させたいという想い、外部に頼り続けるだけでは成り立たない危機感など、
様々な想いが交錯する中で、ともかく自社でできることをやり続ける。
控えめな口調でありながら強い想いを感じる取材となりました。
企業情報
団陶器株式会社
〒859-3702
長崎県 東彼杵郡波佐見町 湯無田郷 1171
TEL:0956-85-3208
HP:https://www.danlife.jp/