美濃焼 店舗とギャラリーを併設する卸小売店を取材

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プロユースから一般向けまで多ジャンル高品質な品揃えを誇る

飲食用食器生産日本一を誇る土岐市北部、土岐美濃焼卸商業団地(協同組合土岐美濃焼卸センター)、通称「織部ヒルズ」。

その一画に拠点を構える金正陶器株式会社は、創業152年の歴史を持つ企業です。

窯焼きから始まった事業は、時代と共に卸売りへと業態を変化、現在ではプロ仕様から一般向けの器、そして作家ものまでを取り揃えており、品揃えと品質は織部ヒルズ随一といわれています。

現在に至るまでの経緯や今後の展望を、五代目代表取締役社長 澤田敦史氏にお伺いしました。

土岐と海外 柔軟に拠点を変えながら発展

初代勘一郎氏が、陶産地の一つである土岐市定林寺の地で、窯焼きとして事業を興したのが1872年。二代目の時に「金正陶器」を屋号とする卸売業へと転換します。

澤田氏の祖父である三代目は、1939年に日本の拠点を引き払い、中国の満州へ家族と共に渡り、貿易の事業を始めます。激動の時代を越え、第二次世界大戦後に一家は日本に戻り、土岐の地で再び商いを始めました。

戦後の高度成長期、主な取引先は大手スーパーでした。全国から注文が殺到し、商売は順調に伸びていきます。

その後、四代目である先代の時期に入り、ホテルレストランの業務用食器卸が取引の主体となります。1980年代後半から1990年代初頭がバブル期だったこともあり、業務用食器の需要が非常に高い時代でした。

澤田氏は卒業後、旅行会社に就職、その後1998年に帰郷します。土岐に戻った当時を振り返ると、じわじわとバブル崩壊後の波が窯業にも押し寄せており、大きなメーカーなどであっても閉業していくような状況だったといいます。

時代と共に融合し始めた業務と一般の境界

美濃焼は分業制による生産に秀でており、大量生産できる一般品から業務用に使われる割烹食器など多岐にわたり様々な器が生産されていました。

金正陶器が提供している業務用の器は、アッパークラスのプロ向けのものが多く、特別な誂えのために手間と製造に時間をかけ、少量生産による器が特徴的です。

一方、家庭向けの器は、使い勝手、サイズ感、重量感、収納のしやすさなど、実用性に富んだものが求められ、また業務用向けの器は、料理に合わせて様々な形状の商品がつくられていたため、まったく系統の違ったものを取り扱っていました。

しかし10年前くらいから、そのすみ分けの境界線が曖昧になってきたと感じるようになります。プロの料理人であっても一般向けの器を、その逆も然りと、プロ向けと一般向けに対しての垣根がユーザーの中でなくなり始めたのです。

そのことを肌で感じた澤田氏は、雑貨店などの顧客層をターゲットにした一般向けの商品を新たに開発、展示会などで出品するようになります。その反応が好評であったことから、一般向けの商品開発にも力を入れるようになりました。

2019年のパンデミックでは、飲食店が軒並み休業を余儀なくされ影響はあったものの、その頃には一般向けの商品展開が順調に進んでいたこともあり、比較的大きなダメージはなく乗り越えることができました。

現在は業務用が7割、一般向けが3割ほどの事業構成となっていますが、一般向けへの開拓にはまだ可能性があると考えています。

敷地内には「喜楽庵&茶房喜楽」でギャラリー、「姿月窯」の屋号で実店舗を併設。

ギャラリーは、作家作品の持つ魅力に、先代の奥様が早い時期から着目していたことから1993年にオープン。美術館に展示されている陶芸家の作品から、近年活躍中の若手作家のものまでが多岐に渡って展示販売されています。店舗「姿月窯」の1Fはセレクトショップ、2Fをプロ向けの業務用食器のショールームを設置しており、ユーザーのニーズに合わせた選びやすい設計になっています。

間口を広げどんなニーズにも応える商品展開

現在取り扱う商品数は3万点以上。

膨大な商品点数は「品揃え」という点で充実する一方で、お客様が最短で目的のものを探し出せるための工夫が必要です。オンラインショップは、お客様目線での「見やすさ」「探しやすさ」「イメージの湧きやすさ」を意識したデザインになっています。

プロの料理人向けのショップ「陶器屋プロ」、ラーメン店をターゲットにした「ラーメン鉢」専門のショップ「RAMEN STYLE}、一般向けやカフェなどをターゲットにした「gourmet STYLE」。

カフェなどの業態に関しては、業務用の器は硬いイメージもあるため、一般向けの器の方が向いていることも多いといいます。

ショップを独立させることで使う人や用途に合わせた入口を作りながら、誰もがどの店舗でも買い回りすることができる、ユーザーにとっては買いやすいオンラインショップは、金正陶器株式会社の強みの一つです。

プロと一般の境界が曖昧になってきている中、間口を広げることで顧客に選択してもらおうという姿勢。顧客の気持ちに寄り添ったスタイルが、バーチャルとリアルで実現されています。

今後の展開 ~3つの「作る」~

将来的なことも見据えて、自社商品の開発、自身の作陶、そして集う場所である体験型施設を作る、この3つの「作る」ことを強化していきたという澤田氏。

一つ目の、自社での商品開発強化を後押ししてくれるきっかけとなったのが、窯を持つご縁ができたということ。

稼働した暁には、取り組みの第一段階として、本焼成の部分、つまりこだわった釉薬をかけて焼成する、という工程をまずは自社でできるようにしたいといいます。窯焼きから始まった金正陶器株式会社。自分の代で、原点に立ち返るという意味を込めての取り組みでもあります。

二つ目は、自身も作陶をする、ということ。やきものの仕事に携わる中、果て無き奥深さを感じるようになりました。

自分の手で土と向き合い、やきものを表現してみたい。仕事の幅を超え、ライフワークとして、遊び心を持って、自分も楽しみながら、やきものに携わっていきたいといいます。

そして三つ目が、「人がたくさん集まれる情報の場」を作ること。

窯を持つことで、訪れる人が作陶を体験し、やきものについてもっと知ってもらえるきっかけ作りになります。すでに実店舗・ギャラリー・オンラインの構築は確立されているため、「見て・触れて・購入できる」の土台はできています。

そこに「作る」要素を加えることで、「やきものをトータル的に深堀り」していけることを強みの一つとしていく、それが金正陶器株式会社が次に目指していくステップです。

自身にとってやきものとは

幼いころから身近にある存在だったやきもの。長年触れてきた今だからこそ、見えてきた「奥の深さ」があります。

陶磁器の一つ一つに、美しさや深みを感じることができ、普段使いから芸術性の高いものまで、幅広く掘り下げていける。また、素材としての魅力がとても大きい。土の採集場所や種類、釉薬の配合、焼成温度、一つ一つの要素が複雑に組み合わさることで、仕上がりの色、風合いが刻一刻と変わっていく、それがやきもの持つ無限大の可能性です。

いい器を使うと美味しいし楽しい。料理があってのものなので、メインにはなりえないかもしれませんが、私たちの生活や心に、豊かさや喜びをもたらせてくれるものです。

人生を通じて、やきものという世界に仕事として携われたことは非常に良かったと感じていると、ゆっくりと言葉を紡いでくれた澤田氏。

「作る」とエッセンスが加わることにより、やきものの魅力をさらに深堀りできる場所が作られていく。金正陶器株式会社の遊び心がカタチとなって、新たな愉しみを味わえる日が来る。その日が心待ち遠しくなるインタビューでした。

【企業情報】

金正陶器株式会社

〒509-5171 岐阜県土岐市泉北山町2-2

TEL:0572-55-3156  FAX:0572-55-3022

https://www.kaneshotoki.co.jp/

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