美濃焼 普段使いの器を極める ~国産美濃焼のオリジナル企画開発から貿易までを行う企業を取材~

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1000年以上続く美濃焼の産地 瑞浪

岐阜県の東部に位置する瑞浪市は、多治見市、土岐市と共に美濃焼の産地として古くから栄えた地域で、現在でも盛んに陶磁器の生産が行われています。陶都の一つとして日本の陶磁器文化を支えている地で、陶磁器商社として活躍しているのが、株式会社アワサカです。取り扱うジャンルは、企画、デザイン、開発、卸、小売り、輸出と多岐に渡ります。

国産美濃焼、普段使い、地元のメーカー(窯元)との関係。

揺るぎない信念から生み出される商品は、デザイン性、オリジナリティ、品質、全てが非常に高く、国内外問わず引き合いが絶えません。その背景にある想いを、二代目代表取締役 粟坂哲也氏にお伺いしました。

陶器商としての歩み

株式会社アワサカは、1961年に先代である父が、お世話になっていた九州のお客様の一文字と、先代の名の一文字を合わせた「山仁」の屋号で、「山仁粟坂商店」として創業されました。

粟坂氏自身は卒業後、経験と見聞を広めるために貿易会社に就職、平成元年に瑞浪に帰郷します。
平成5年に今の地に1000坪の社屋を構え、翌6年に「株式会社アワサカ」としての歩みを始めます。

ブライダル、百貨店卸販売、ギフト供給を広げながら、展示会での発表などで着実に販路を広げ、今では自社オリジナル商品開発、顧客依頼による
OEM、卸販売、自社オンラインショッピングサイト運営、そして海外への輸出など多岐に渡った業務を行っています。

3つのコンセプトから生まれるオリジナル商品

多くのメーカーが海外生産へと転換する中で、株式会社アワサカは、Made in Japan、国産美濃焼だけの、自社オリジナル開発やOEMに特化しています。

商品構成はギフトが3割、単品が7割となっていますが、その中心に必ずあるのは「普段使い」です。
毎日気軽に使えて買い換えられる、それが美濃焼の良いところであるという考えの下、軸となる3つのコンセプトで、商品選定を行います。

・大人の女性が可愛いと思うこと

・価格がリーズナブルであること

・Made in Japanであること

そこから生まれる商品は多種多様です。おとなカワイイがテーマのブランド「テーブルトークプレゼンツ」。
そのシリーズの一つ、北欧と東欧のエッセンスが絶妙なバランスで取り入れられた「ポタリ―フィールド」は、アワサカセレクションの大ヒットシリーズとなりました。

その他にも、日本の心と美を図柄に反映させた「モダンジャパニズム」、スリップウェア風の「スリップショコラ」、レトロ感のある「アンティコ」など、時代のトレンドをうまく取り入れた器たちは、大人の女性を中心とした顧客の心をがっちりと掴んでいます。

別の購買層をターゲットとした、職人の手仕事によるブランド「清風」、磁器土を中心とした「仁峰」をはじめ、海外でも人気の高い鯉や赤絵など、各ブランドどれもが個性豊かなデザイン心溢れる高品質なものばかりです。。

これほどまでに多岐に渡った開発が可能であるのは、それぞれの窯元の特性や職人の個性を知っている、産地に根付いた商社だからこそだといいます。

普段使いの親しみやすさをちりばめる

株式会社アワサカが掲げる「普段使い」は気取らないこと。
ありのままで、という考えは、社内の様々なところにも見られます。

ギフトアイテムをはじめ商品撮影は全て自社で、シリーズにつけるキャッチコピーも社内スタッフによって考えられます。
自分たちで手がけているからこそわかるメッセージ性は、使い手である購入者にとってはイメージしやすく、自分でも使えると思わせてくれる親しみやすさがあります。

またHP上にあるブログには、日常が垣間見える内容が書かれていることもあり、読者が思わずクスっとなることも。

等身大の姿で取り組む、自由度の高い軽やかな空気感は器たちにも反映されていて、見ていてわくわくするようなデザインや色使いは、使い手の一人としてどれも使いたくなるものばかりです。

対等な関係でモノづくりを行う

お客様との関係はもちろんですが、メーカーと良い関係を築いた上でタッグを組むことがとても重要で、それは今まで以上に必要になってくるという粟坂氏。

近年、高齢化の波は陶磁器業界にも押し寄せ、業界を縁の下から支える生地屋などの業者の中には閉業していくところも出てきています。
加えて、設備の老朽化や入れ替えなどにコストがかかるため、原材料業者やメーカーにとっての投資負担は決して小さいものではありません。

モノづくりを行うために、商社が果たす役割とはなにか。
その答えの一つが、商社もどこかのリスクを共に背負うということだと粟坂氏は考えています。

安価で仕入れ、大量生産を促すことで販売数や売上が伸ばす手法を取る商社によって、作り手への負担が重くのしかかり、魅力ある商品開発の減少や閉業を余儀なくされるような場面も過去に目にしてきたといいます。

「お客様はもちろん大切です。でも仕入れも大事。メーカーに寄り添うことは何よりも大事なのです」

これは、取材中に何度も粟坂氏が口にされた言葉です。

メーカーがあってこその商社であること。
共にいいものを作るためには、デザイン面の投資など、商社も生産に対してのリスクを共に背負うべきである。 

その覚悟があるからこそ、相手に本気度が伝わり、対等な関係が構築でき、本音で付き合えたその先に、
新しい取り組みやいいモノづくりが生まれてくる。

開発される商品ひとつひとつにその強い信念が宿っているからこそ、お客様が欲しいと思う、喜ばれる商品が生まれます。

国内外において人気を確立している理由の一つには、粟坂氏が抱くこの想いが根底にあるからこそだと感じる、強いメッセージ性のある言葉でした。

産地商社だからこその強みを生かす

株式会社アワサカでは、平成27年から自社で専属デザイナーを採用。

デザイナーを持ったことにより、挑戦できることも増え、可能性も無限大になりました。
現在デザイナーは二名。経験豊富なデザイナーの元で、粟坂氏の娘さんもデザインを手がけています。

繊細でリアルな表現にこだわるために、すべてのデッサンは手描きで起こされ、その後、生産に向けた転写紙やパッド印刷へと展開するという非常に時間と手間のかかる作業ですが、このデザインのオリジナリティこそがアワサカの強みの一つです。

もう一つの強みは、そのデザインをどこに生産依頼するのか、特性に合わせた窯元を見つけることができるという点です。

半径10キロ圏に、窯元から、箱、筆、道具屋さんが全て揃っているといわれる瑞浪。

どこの窯が何を得意としていて、どの職人ならその工程が可能か、産地に根付いた商社だからこそ知りえる情報と
ネットワークを駆使したモノづくりができるのは、最強の強みといっても過言ではありません。

東濃の窯元は現在300数軒、最盛期の6分の1にまで減少しています。この地で産業を継続させていくためにも、各企業が力を合わせる必要がある。

商社の自分たちだからこそできること。

それは、OEM企画、デザイン、オリジナルブランド構築など、適材適所を選ぶことで、美濃焼の特徴を最大限に生かした商品を開発していくこと。

そして企業と窯元の橋渡し的な役割も担っていくこと、それらの想いが粟坂氏を動かす原動力の一つになっています。

若い人が夢を持って進んでいける土壌を作る

ともかく何か新しいことを毎年一つはやる、展示会で発表する、と決めて毎年臨む粟坂氏。
仕組みが社内でも整い、アワサカブランドも確立されてきたここからは、次の世代の人材が進んでいける土壌を作っていきたいと考えています。

業界を取り巻く状況は平坦なものではないながらも、その中で働く若い世代の夢や希望が絶えないような取り組みを進めていきたい。
そのためにも、ここからは若い世代が全面に出ていくようにして、自分はそれをバックアップできるような存在でいたい。

先代から受け取ったバトンを次の世代に渡せることがありがたい、と静かに呟かれた言葉が印象的でした。

自身にとってのやきものとは

やきものに対する想いは、時を重ねるにつれて少しずつ自分の中でも変わってきました。
様々なことを経験してきた今だからこそ思うことは、やきものは「食べる」ということに関わる、「暮らしの道具」だということです。

日常で楽しんで使ってもらえるような器を供給し続ける会社でありたい。

100年先の未来の食卓でも、使う人が心豊かになるような喜ばれる商品を作っていたい。

作り手・売り手・使い手が喜ぶ「三方良し」の精神。

産地でやきものを取り巻く環境を見つめ、自社が果たす役割と真剣に向き合い取り組む、粟坂氏の言葉の全てが、静かな波のように心に、じわりと広がっていく取材となりました。

【企業情報】

株式会社アワサカ

〒509-6127 岐阜県瑞浪市須野志町1丁目1番地

TEL: 0572-67-1228

https://www.awasaka.com

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